初音ミクのキャラ性だけでVocaloidを批判するやつは、なにもわかっちゃいない


初音ミク「桜ノ雨」で卒業式…ネットで登場、希望殺到(読売新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090225-00000578-yom-ent

このうちの1曲、卒業前の切ない思いを歌った「桜ノ雨」は、全国の学校から「卒業式で歌いたい」と申し出が殺到、今春の卒業式シーズンには全国80校以上で合唱される見通しだ。

久しぶりにニコニコの「桜の雨」を見に行ったら、そりゃ荒れるわ荒れるわで。大方が予想付く状況だろうが・・・。
初期のVocaloid批判については電通の工作説云々もあるのだが、そういう陰謀論はおいといて、ちょっとVocaloid批判について言っておきたいことがある。
タイトルは若干釣りっぽい。



MIDI文化の死

少し昔の話をしなければなるまい。
Vocaloid文化はMIDI文化の延長上にある。帯域が細い時代、音符データだけのMIDIでいかに原曲を再現するか、いかに上手く耳コピするかで切磋琢磨する時代があった。個人サイトではそのMIDIの再現度を競い合った。MIDIの性質上、ボーカル曲を再現するのは不可能だったので、ゲーム音楽等のインストゥルメンタルが好まれる傾向があった。またMIDIから作曲に足を踏み入れ、MIDIを手始めにプロデビューする人々も出現した。そして同人音楽の入り口であった。


時はインターネット黎明期の世紀末*1。そんな中、ある出来事がMIDI文化に大打撃を与える。

日本音楽著作権協会JASRAC)が,文化庁長官に申請していた音楽のインターネット配信の使用料規定(8月17日の記事参照 )が,12月18日に一部修正のもと認可された。商用の音楽配信サービスについては申請内容と同じ7.7%(または7.7円の多いほう)だが,個人サイトでの楽曲の利用については,申請した「10曲まで年額1万円,または月額1000円」が,「1曲につき年額1200円,または1年以内の利用の場合は月額 150円」に修正されている。

News:個人サイトでの楽曲利用,MIDIユーザーの猛反対も文化庁が認可 :2000年12月22日 10:19 PM 更新
http://www.itmedia.co.jp/news/0012/22/jasrac.html


当時、着メロが普及しだしたりしていて、音符データへの規制の風潮が強まっていたのだろうか。そこらへんの背景は僕はよく存ぜぬのだが、ともかく。この後どうなったか。法律はお飾りだけで機能しなかったら、それはそれで良かったのだろうが、事は最悪の方向に向かった。なんとJASRACは片っ端から規約違反のサイトに請求書を送りつけたのだ*2。これで個人midiサイトは機能不全に陥るor閉鎖するに至った。この出来事が日本のインターネット界で連綿と続く、JASRAC批判の大本だ。
行き場を失ったMIDI制作者の一部は、この後カラオケのデータ打ち込みのバイトへ流れていったと聞いているが、詳しい事は知らない。


これにより、Desk Top Music 、DTMはここで冬の時代を迎える事になる。ハード性能は向上し、ネットワークは普及し、インターネットを取り囲む環境はMIDI時代なんぞ遥かにレベルが高い環境になったにも関わらず、アレンジ曲という客引きをなくしたまま、注目される機会を失った。そしてニコニコ動画の登場まで、muzieやら細々したサイトはあったものの、メインストリームから一歩退いた立場に退く事になった。

ニコニコ動画時代

違法化によってアンダーグラウンドに追いやられたアレンジ曲も、ニコニコ動画の登場によってその様子を変えていく事になる。ニコニコ動画も、その当初は2ch系のアンダーグラウンド臭が強い場ではあったのだが、なんせ勢いが半端なかった。JASRAC管轄外ということで元々アレンジに勢いのあった東方や、ニコニコの人気曲をアレンジしてメドレーにした「ニコニコ組曲」の前後から「歌ってみた」「弾いてみた」を含むアマの活動家が大きな勢力になってきた。
そして2007年9月、初音ミクという起爆剤を得る事によって、一気にメジャーストリームに押し上げられる事になる。
当初は既存曲が多かったものの、すぐにオリジナル曲中心にシフトし、ここに至りかつてのMIDI世代のアマがオリジナル曲を発表し始めるに至る*3


かつて、ボーカル曲制作にはかなり敷居が高かった。新たにボーカル専用の録音環境を作るのも高コストだし、歌い手を探してくるのも難しかった。しかし、初音ミクという新たなオモチャを得た作曲者達は、気兼ねなく、ボーカル曲のデモ曲としてかはわからないが、新たなジャンルに飛び込んできたのだ。


そして、かつての敵JASRACも、ニコニコ動画を潰すのではなく、強調する路線へと向かう。
ニコニコ動画JASRAC曲の演奏動画が投稿可能に - ITmedia News : http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/01/news100.html


これで合法的に、気兼ねなく、アレンジ〜オリジナルを発表する事ができる環境が整ったわけだ。

Vocaloid曲はオリジナル発表の隠れ蓑 MIDI文化の近代的再生

前述の通り、ニコニコはオリジナル曲が伸びにくい風潮がある。ニコニコでは、というか、日本のインターネット全体がそうだ。どんな良曲でもアニメやゲーム曲のアレンジでないと伸びるのは稀であり、何らかの属性を付与してリスナーの気を引くしかない。
そこで作曲者達が隠れ蓑に使ったのが、ボーカロイドだったわけだ。
初音ミク自体へのイメージは、KEI氏があのパッケージを書いた時点で決定付けられた。「架空の歌姫」路線はメディア戦略としては成功だったと言えるだろう。ただ、そのせいで「楽器としてのVocaloid」には偏見がつきまとう事になった。

アイドルポップのアイドルは、当然ながらアイドルが作詞作曲しているわけではない。曲自体は背後に見え隠れするプロデューサーの創作物である。Vocaloid曲は、Voaloidという枠組みでなく、そのプロデューサーのオリジナル曲という枠組みで捉えるのが適当だ。
だから、Vocaloid曲を好んで聞いているようなニコ厨は、Vocaloidという看板に騙されているだけ。タイトルでなんもわかっちゃいない!と書いたが、ジャンルを盛り上げるにはこれでいいのかもしれない。


「架空の歌姫」としてフューチャーした曲は、それはそれで面白いのだが、それが全てではない。そこらへんは初期ヒット曲の「みっくみくにしてあげる/やんよ」の功罪というべきか。


「声が嫌い」「まだ電子的」 そのような批判は、仕方ないところ。ここは技術の進歩を期待するしかない。


最後に

DTMに触れている僕個人的としては、その技巧にとんだ楽曲を楽しみにしている。


僕のボーカロイドのマイリストをさらしておく。http://www.nicovideo.jp/mylist/11014330
と、オススメの曲を一つ。


[宇宙インフラストラクチャー]
D


*1 当時僕は小学生だったので、記憶が曖昧なところもある
*2 どうやらページ本文にアーティスト名+midiファイルが置いてあるだけで請求書が送られるアルゴリズムが組まれていたらしい。恐喝に近い文面だったと記憶している。
*3 もちろん、MIDI以降の世代も多かっただろうが、DTM板を覗いたときに「MIDI時代以来久しぶりにシンセを動かした」というような人が多かった。個人的な予想だが、初期のオリジナル曲は彼らのストックの主旋律を差し替えたものが多かったのではないか?調律が甘い曲も多かったし。